GaN研究の歴史とこれから

青色LEDが照らす、明るい未来

青色LEDを光源とする白色LED照明は、蛍光灯を上回る高い効率で、かつ長寿命という特徴を持つため、日本国内において急速に普及しています。その普及率は2025年には70%に達すると予測されています(日本照明工業会 照明成長戦略2030より)。その普及により、国内全発電量の約7%を削減できるとされ、これは原子力発電所十数基分に相当します。今後は国外でも普及が進み、2025年の世界市場は、照明およびディスプレイ用途で約16兆円と言われています(富士経済資料より)。
また、LEDを用いた照明は小型かつ少ない電力で長時間使用できることから、インフラを持たない世界15億人の人々に明るい夜を届けることも可能です。
GaNは新世紀のあかりとして明るい未来を照らす材料です。

青色LEDが照らす、明るい未来のイメージ

青色LED開発の歴史

青色LEDは、適した材料の作製が非常に困難であったため、20世紀中の実現は不可能とされていました。有力な材料候補の1つであったGaN(窒化ガリウム)は、きれいな結晶を得ることが特に難しく、1980年頃には多くの研究者はあきらめてしまいました。
しかし、赤﨑特別教授と天野教授は、科学的特性に裏付けされた信念によりGaNの高品質化に粘り強く取り組み、1982年にバッファ層技術を発明し、サファイア基板上に非常にきれいなGaN結晶の作製に成功しました。
その後、LEDに電気を流すために必要なn型およびp型GaN、青い光を効率よく出すために必要な高品質InGaN結晶やLEDの構造が、次々と実現されました。
豊田合成、日亜化学がこれらの技術を基に製品化し、その性能は急速な進化を遂げました。さらに黄色または緑と赤色の蛍光体と組み合わせることにより、新世紀のあかり=白色LEDとして広く普及しました。
現在、GaNおよび青色LEDの技術は各種照明、ディスプレイ、Blu-rayディスク、イルミネーションなどわたしたちの社会に、広く深く浸透しています。

青色LED開発の歴史

更なる省エネへ~パワーデバイスへの応用~

家電製品から電気自動車や発電所での電力変換などに用いられている直流・交流変換器には、パワーデバイスが使われています。現在はその材料としてSi(シリコン)が用いられています。
一方、GaNは大きな電圧に耐えうる性能が、Siの10倍も高いため、同じ性能を持った部品を、シリコンの10倍薄く作ることができます。そのため、電気を流したときの抵抗が小さくなり、エネルギー損失が約1/10になるので、大きな省エネ効果が期待されています。
日本にはこのパワーデバイスを実現するための高度な技術を持つ研究機関、企業が多数あります。現在、産官学の連携によりその技術を集約し、名古屋大学を中心とした新たな省エネルギー技術革新を実現するための研究体制構築が図られています。未来エレクトロニクス集積研究センターはその中核機関の一つを担います。

パワーデバイスへの応用イメージ

次世代半導体GaNの、多様な用途

GaNは、LED照明以外にも多くの応用可能性を秘めた「未来材料」です。
研究資源の集中と加速により、材料の可能性を最大限に引き出し、3つの生活・社会テーマに関する様々な用途への応用に取り組みます。

次世代半導体GaNの多様な用途イメージ

GaN(窒化ガリウム)とは?

GaNとは、どういう物質ですか?
GaN(窒化ガリウム)は、ガリウム(Ga)元素と、窒素(N)元素を組み合わせた化合物で、ガリウムナイトライドとも呼ばれます。自然界には存在せず、人工的に作り出します。電気をよく通す「導体」と、電気をほとんど通さない「絶縁体」の中間の、「半導体」の性質をもちます。
GaNには、どのような特長がありますか?
GaNは、高い電圧をかけても壊れにくく、丈夫で安定した性質をもちます。半導体材料としてよく使われているシリコン(Si)と比べて、電気を光に変換する効率や電力の変換効率が非常に優れています。また、リンやヒ素など、体に有害な元素を含まないというメリットもあります。
GaNは、どのように作られるのですか?
LED材料としてGaNを作るときは、「有機金属気相成長法(MOVPE法)」を用います。主にサファイアの基板の上に、1000℃程度の高温で、ガリウム(Ga)と窒素(N)を吹き付けて成膜します。GaNの高品質な結晶を作ることはとても難しかったのですが、当時大学院生だった天野教授は、サファイア基板の上に「低温バッファ層」を挟むことで、きれいなGaN結晶を作ることに成功しました。
赤﨑特別教授と天野教授は、なぜGaNに注目したのですか?
科学の世界では、すでに1960年代には、赤色LEDと緑色LEDが開発されていました。光の三原色の残りの青色LEDができれば、白色を含めていろいろな色が表現できるようになります。そのため、多くの科学者が、青色LEDの開発を研究しましたが、当時その材料として注目されていたのは、「セレン化亜鉛(ZnSe)」でした。
しかし当時大学院生だった天野教授は、セレン化亜鉛はもろく商品化が難しいと判断し、非常に丈夫で長く使えるGaNを材料として選択しました。GaNは、きれいな結晶を作るのが困難なため、他の科学者は敬遠していましたが、天野教授たちは、熱や電圧に耐えうる丈夫さと、高い光変換効率を両立する材料はGaNしかないと考え、独自の道を進みました。
GaNを材料とする青色LED(白色LED)は、どんなところに使われていますか?
住宅やオフィスの一般照明はもちろん、街路灯や信号機、スタジアムや工場等の大型照明にも使われています。また、自転車・自動車・バイク等の各種ランプや、薄型液晶ディスプレイのバックライト(テレビ、携帯、スマホ、PC、タブレット)、スタジアムや屋外での大型ディスプレイ、各種表示灯、イルミネーションなど、私たちの身の回りの照明として幅広く使われています。
なぜLEDは省エネルギーなのですか?
白熱灯や蛍光灯は、電気エネルギーを光エネルギーに変換するときに人間の目には見えない波長の光(紫外線)や熱(赤外線)も出すため、その分電気エネルギーを無駄にしています。一方LED照明は、電気エネルギーを直接、必要な波長の光エネルギーに変換できるので、従来の技術に比べてエネルギー損失(発熱)を少なく抑えることができます。つまり、少ない電気で明るく光ることができるため、省エネルギーなのです。
GaNは、なぜ次世代半導体と言われているのですか?
第1に、照明だけでなく、電力の制御・供給に不可欠なパワー半導体として活用することにより、大幅な省エネルギーが期待できるためです。現在のパワー半導体の主流であるSiインバーターでは、電力変換の際に5%の熱損失があります。しかしGaNを半導体材料として用いると、熱損失をわずか0.75%に抑えることができます。また、インバーター等を小型にすることができるためパソコンのACアダプタが不要になったり、電車やハイブリッドカーの燃費を向上させたりすることもできます。
第2に、情報伝送デバイスとして活用することにより、高速通信やディスプレイの高性能化、光記録の大容量化なども実現できます。
さらに第3の活用法として、光の波長を変えた深紫外線LEDは、飲み水の殺菌や皮膚病治療、有害物質の分解などにも応用が期待されています。 このようにGaNは、省エネルギー、高度IT化、安心・安全な生活を実現しうる半導体材料であることから、次世代半導体と呼ばれているのです。
なぜノーベル物理学賞を受賞できたのですか?
天野教授らのノーベル物理学賞受賞理由は、「高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオードの発明」というものです。受賞の背景には、大きく3つの要因があると考えられます。
第1に、誰もがあきらめてしまうほど非常に難しかった、GaN結晶作製技術を確立したことです。
第2に、GaN結晶を材料として、20世紀中は実現不可能とされた青色LEDの開発に成功したことです。
そして第3に、青色LEDの量産化が実現し、かつ蛍光体との組み合わせにより白色LEDとして広く用いられたことにより、その恩恵が世界中に普及したことです。

GaNの研究体制

なぜ、もっとGaNを研究しなければならないのですか?
より安価で省エネルギーなLEDの開発や、Siに代わるパワー半導体として普及するためには、さらなる高品質化や低コスト化が必要です。また、多様な製品や用途への活用に向けた研究開発も必要です。例えば、パワーデバイスは、LEDの1000倍近くの電圧(3000V以上)に耐える必要があります。そのためには、LEDの時よりも結晶中の欠陥や不純物の数を
1/1000にしなければなりません。その目標に向け、サファイア基板をGaN基板に置き換えること、不純物の少ない結晶成長ができること、それらを低コストで実現することなど、多くの課題を克服しなくてはなりません。
名古屋大学では、どのような組織でGaNの研究をしているのですか?
名古屋大学における材料工学の拠点として、従来の組織を改組し、2015年10月に「未来材料・システム研究所」を設置しました。地球規模での資源制約および環境制約の下、自然と調和する豊かで安全な人間社会の持続的発展を支えるために、材料からシステムに至る領域の研究課題に取り組んでいます。
同研究所には、特にGaNを中心とした次世代材料の開発に取り組む「未来エレクトロニクス集積研究センター」が設置されました。GaNを中心とした次世代エレクトロニクスに必要な材料、デバイスプロセス、評価、シミュレーションを研究し、主にエネルギー消費の削減が期待できるパワーデバイスの開発に取り組んでいます。
センター長の天野教授をはじめ、各分野でトップクラスの研究者たちが、Siに代わる未来材料としてGaNの可能性を切り拓くため、先端研究を推進しています。
他の大学や企業と、どのように協力しているのですか?
これまでは、研究テーマごとに他の大学や企業と協力して研究を進めてきましたが、2015年10月に新たに「GaN研究コンソーシアム」という枠組みを構築しました。ここには、GaNの研究に関わる大学や企業、研究機関など、現時点で50を超える機関が参加しています。このオールジャパンの体制の下で研究を効率的に推進し、組織の壁を超えて技術の集
約、研究開発の加速を行い、世界をリードするイノベーションの創出を目指します。
国は、GaN研究を支援しているのですか?
GaNはその特性を活かして省エネルギー、高度IT化、安心・安全な生活を実現しうる半導体材料であることから、国からの期待も大きく、研究推進のための国の支援を受けています。国からの支援は主に実験に必要な研究設備・原材料の購入などに充てられ、研究開発を実際に進めて行くための経費として使われています。
なぜ寄附が必要なのですか?
GaNの研究開発を加速し、その研究成果を皆さまの生活や暮らしにいち早く還元していくには、世界最高レベルの研究を強力に進めて行くことが必須で、国内外の優秀な研究者との連携や研究環境の充実などのため多くの研究・運営費用が必要となります。しかし、優秀な研究マネジメント人材を安定的に雇用する経費や、知的財産権(特許等)の確保・維持に要する経費、研究設備の維持・保守に係る経費などは、公的な研究資金だけで対応することは難しく不足しています。こうした必要経費を確保するため、皆さまからのご支援をお願いしています。
寄附をする